最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)1312号 決定 1958年10月27日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人一松弘の上告趣意第一点について
所論は、本件には原判決挙示の臨時特例法一一条が適用され、従って関税法一一一条一項、一一二条三項が準用されて二年以下の懲役、二〇万円以下の罰金で処断されるべきであるのに、一審判決が右特例法一二条関税法一一〇条一項一一二条一項を適用し三年以下の懲役、三〇万円以下の罰金の範囲で処断したのは違法であるのに、この主張に対して原判決が双方が観念的競合の関係で適用されるから、結局一審判決は正しいと判断したのが誤りであるというにある。
しかしながら無許可輸入と関税の逋脱とは、旧関税法(昭和二九年法律六一号による改正前のもの)は、七六条(無免許輸出入)、七五条(関税逋脱)の関係につき特に七六条四項の規定を設け「前三項ノ規定ハ第七十四条又ハ第七十五条ニ該当スルモノニハ之ヲ適用セズ」とあって、関税逋脱、禁制品輸入に該当する場合には無免許輸入の規定は適用しないとしていたが、現行法は、この種の規定を削除しているし、また関税法一一一条における被害法益は関税法の目的の一つである輸入管理にあり、その罰則は本来秩序罰的性質をもつ形式犯であるのに対し、第一一〇条の法益は関税収入であって実質犯と解すべきであるから、両者は相排斥するものではなく、一個の所為でこれを犯すときは観念的競合と解すべく、従って原判断は正当であり所論は理由がない。
同第二点は量刑の非難に過ぎない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)